28. Januar 2005: 理想の弓とは
ここでは様々な角度から弓について検証していきたい。その前提として弓の強さと弓にあった矢尺については 他の項 弓の選択について を一覧して頂きたい。
- 弓の形状
- 弓の素材
- 弓の構造
- 弓の精度
- 弓の復元力
- 弓力の張力
- 弓の運動エネルギー
- 弓の価格
- 体感による弓の嗜好
-
弓の形状
- 弦を張っていない状態:
弓の形は弓師や地域によって随分と違い
があるが、ここでは一般的な事項を記載
したい。
一般的に直線的な部分がなく、なくむら
なく曲線であることがよい弓の形である
といえる。裏反りはグラス・カーボン弓
ともに約6-12cm位で、竹弓では初期は30cm以上の
裏反りがあり、24-15cm位に収まるまで(夏期
を除き)張りっぱなしにしておくことが
重要である。裏反りが強すぎると、弓が
返る恐れがあり、又弓の姫反部分が安定
していないので素引きに留める程度がよ
いとされる。
- 弦を張った状態:
上記の如く弓師・地域差によって弓の成
りが違う。張顔(弓を張った姿)を上方
からと横からみる必要がある。先ず上方
からは下図のAように弦が弓の右側を通
っているものが善しとされている。この
状態を入木弓という。弦が反対に振れて
いる弓は出木弓といい、これは悪い例で
ある。和弓では矢が弓の右側に乗ってお
り、矢と弓の摩擦を減らす為と、弦が的
に向かって素直に進む為にはこの入木状
態が重要である。
弓を横から見る場合先ず、末弭を床に
付け、本弭をへその辺り置き、弦を身
体に対して直角にあてる。この様に弓
を斜め上から見た場合に下成と鳥打(
大鳥)の曲線がほぼ等しくなるのが理
想とされている。
グラス・カーボン弓は製造工程でこの
曲線が決められており、変更は個人で
は出来ない。しかし、竹弓は弓を張っ
て直ぐに強い部分を押し幾分弱める事
によってバランスを作る事が出来る。
新弓の場合は弓の張り込み台の形が残
っているので、購入後は弦を外す前に
この弓の形を紙に移して置くか、弦か
らの距離を書き取っておくと今後の弓
の手入れでそれを考慮することが出来
る。竹弓に於いては使用者の好みの形
に合わせる事が可能であり、そういっ
た部分では楽しみがある反面、形を常
に一定に保つ事は難しい。もちろん弓
によってその弓の潜在的な形の変化を
見極めることも弓を育てるにあって大
切である。
- 弦を引き取った状態:
この状態を引成りという。この時も直
線的 ;な部分がなく、奇麗な曲線を描い
ているߚ 7;が重要である。ある弓師によ
ると、引成| 26;は半月の如く がよいと
されているが、これは恐らく目付 ;け節
を中心に内側へ流れる曲線の延長線ӗ 2;
弓の末弭・本弭の延長線が半月の様に
バ} 21;ンスが取れている事を意味してい
るので 399;ないかと思われる。竹弓での
引成り修正 2399;上記の様に弓に圧力を加
えるか、熱を加 12360;る事により変更が可
能である。 引成りで特に気を付ける事
は極端な出っ張 ;りが無い事である。曲
線が強すぎの傾向ӗ 5;ある場合はこの部
分が益々弱く成る傾向{ 95;ある為早めに
処置をする。
グラス・カーボン弓は変更不可である。
働いているので実際取りかけている弦か
ら見ると、Cの線上(矢筋)方向への力
が働いている。
図の説明
弓の地点 1: 弓を引いていない状態
弓の地点 2: 上記と同様であるが、引き取
った状態での弓の傾きを
弓を引き取った状態では弓の上部と下部
の長さの違いと強さの違いから、弓は前
方へ傾斜(約8-12度)するために弓の力の
分岐点は、丁度Aの地点当たりになる。
実際には図の2から3の地点へ弓は曲げ
られる。弓の傾きから見て約90度の方向
へ力が働いているので実際取りかけてい
る弦から見ると、Cの線上(矢筋)方向
への力が働いている。
図の説明
弓の地点 1: 弓を引いていない状態
弓の地点 2: 上記と同様であるが、引き取
った状態での弓の傾きを考慮し、実際の
弓上下の曲がりの違いを表すため
弓の地点 3: 弓を引き取った状態
-
弓の素材
一般的に弓の素材が軽くなるほど、瞬発
力が増し、細くなる程空気抵抗が少なく
なるために矢飛びは向上する。弓の力が
同じ場合はグラス・カーボン弓は竹弓に
比べやや太く重くなる。
裏反りが強くなるほど弓力に対して反発
力が向上する。竹弓は素材自体が曲げ方
向の圧力に対する負荷に強い為に裏反を
強く付けることが出来る。グラス・カー
ボン弓は素材自体は(内木)曲げ方向へ
対しての負荷にはあまり強くないが、外
に貼り付けてあるグラス・カーボン素材
自体に少ない負荷で反発力を得ることが
出来るために強い裏反りは必要とせず、
これは素材への負担を減らすことになる
。
矢尺方向への曲げに対しての力の働きを
見てみると、外竹は伸び方向・内竹は縮
み方向へ反発する力が働いている。この
力が強いほど弓の反発力が強くなる。
竹弓に使用されている竹は、弓の切断面
から見た場合、内側から外側にかけて竹
の繊維が密集しており、この部分が内側
に対して固く、一つの竹線の中で伸び・
縮み共に相互に働いている。
それに対してグラス・カーボン弓は内木
に比べ表面のグラス・カーボン繊維が硬
くできており、それによってバランスを
取っている。
竹は下から上まで多くの繊維が通ってお
り、それにより力を理想的に分配し、反
動を吸収する働きを持っている。繊維の
数が増える程反動を拡散し、吸収力も相
乗的に増加する。
表 1: 素材の比較・弓力が一定の場合
弓 |
グラス・カーボン弓 |
竹弓 |
重量(瞬発力) |
やや重い 0 |
軽い 1 |
幅 (空気抵抗) |
やや太い 0 |
細い 1 |
弦を張っていない状態弦を張った状態での曲げ方向へ
の硬さ(素材の伸縮率の大きさ)
矢発射後の振動時間 *1 |
柔らかい 0 |
硬い 1 |
素材への曲げ方向への負荷に対する強さ |
やや強い 0 |
強い 1 |
素材の伸び縮み率 |
やや大きい 0 |
小さい 1 |
弓の負荷に対しての反発力 *2 |
大きい 1 |
やや大きい 0 |
器具の調整・気温・湿度の変化に対しての影響 |
少ない 1 |
大きい 0 |
長期使用期間においての材質の性能 |
小さい 1 |
大きい 0 |
結果 |
3 |
5 |
*1 振動時間は弦を張った状態での材
質の硬さが強くなるほどに少なくなる。
*2 張力指数は弓の力が同じ場合、裏
反りを含めた実際の曲げ方向への長さ
が少ないほど増加する。(少ない負荷
で張力を得る事が出来る)
-
弓の精度
弓の性能を計る目安として弓自体の精度
は重要である。グラス・カーボン弓は表
1から見られるように素材の性能低下率
が低い。これは長期使用時に於いてと、
連続して矢数をかけた時の弓の形・運動
能力の変化が少ない事とを表している。
実際の行射に於いては射術の完成度が矢
所に大きな影響を与えるが、弓の性能が
常に一定の場合は、矢所は使用している
弓におけるものではなく、射技のみの影
響から来るものと判断できる。
性能の良い弓は運動能力が弓の張力(引
き取った時点での弓の強さ)に対して優
れている。しかし、使用者によってこの
弓の性能が十分に引き出せるかが決定さ
れる。 一般的に裏反りの強い弓は反発力
があり、矢飛びはよいが、弓の収まりは
難しくなる。
- グラス・カーボン弓での矢所へ
の影響は、長期使用と継続使用において
少ない。
- 竹弓は射手の鏡となり、精度は
射手自身の技量、調整による。
-
弓の構造
弓の構造比較 横からみた図と断面図
(図: 木材とグラスファイバー混合 小山弓
具店)
(図: 木材とグラス・カーボンファイバー
混合 小山弓具店)
(図: 竹弓 五本ひご)
素材の方向は断面図で見たものを横また
は縦方向と指定する:
竹弓の構造の違い:
竹弓はひごと内竹に強い焦がしが入ると
弓力が一定の場合は材質は一般的に軽く
・細く・硬くなる。これは竹の素材が熱
を加えられる事により、カーボン素材に
変化するためである。通常は弓の内木か
ら見て、右側が強く火入れされている場
合が多い。
ひごの数が増えるほど上記の如く性能は
増加する。力の分散により、反発力は向
上し、振動は減少する。
(図: 左から3、4、5本ひご)
色の濃い部分は竹の表面方向で、竹繊維
の密度が内側方向に対して高く、硬い部
分である。
-
弓の復元力
-
復元力 A: 的方向
グラス・カーボン弓の内側の木材構造は
この方向へ対してあまり強くないが、表
面に張り付けられている縦方向のグラス
・カーボン繊維がそれを補っている。
竹弓の内側の作りはH型であり、この方
向に対して非常に強い作りとなっている
。
弓の上下の復元距離は弓の仰角の復元を
踏まえるとほぼ同じである。これは上記
記載の弓の形状・引き成りの図と反対方
向への復元である。
矢は弓よりも空気抵抗が少ない為に、弓
が弓巴(弓と弦の間隔)に戻る前に最大
速度に到達し、弦から離れる。この距離
は弓・矢・弦の重量のバランスと射技の
完成度で違いがある。矢が弦から分離す
るときは弓の仰角が完全には戻っていな
いので、矢はやや下向きに発射される。
しかし、実際は右手親指で矢のすうセン
チ下の弦を引いている事から、この下向
きの方向は修正され、矢は水平に放たれ
る。
弓の上下の復元距離と時間が著しく違う
場合は、矢は縦方向へ泳ぎながら飛んで
いく。更に弓の反動と振動は大きくなる
。
- 復元力 B: 捻り方向
竹弓の構造はねりじ方向に対しても強い
構造となっている。これは図の説明の通
り、ねじり方向に対して、ひご竹内の外
側の竹繊維の密度が高く、内側に対して
硬く出来ているために、それぞれのひご
内での収縮・伸張により剛性が保たれる
からである。
グラス・カーボン弓は構造上この方向へ
対してあまり強くない構造となっている
が、横方向へのグラス・カーボン繊維が
この働きを助ける。
この曲げ方向への力は、復元力AとCの
大きさと、素材自体の硬さ、上下の成り
部分と握り部分の曲げ方向に対する強さ
の違いに影響される。このねじり方向へ
の復元力は弓の太い部分(握り)から細
い部分へ影響し、この力点は振動率が低
い。一般的にねじり方向への力が強いほ
どに復元力Cの横方向への幅が増加し、
矢飛びは向上する。しかし、ねじり過ぎ
による過大の横方向への弓の曲がりは発
射後の反動による弓の振動を増加させる
だけでなく、矢は横方向へ泳ぎながら飛
んでいく。
この復元力Bは和弓独特のものであり、
矢の発射地点での弓の復元力と速度を増
す働きをする。
- 復元力 C: 横方向
竹弓の構造はこの方向へ対してあまり
強くはないが、実際の行射において良
い影響を与える。これは上記如く弓に
捻りを加えた場合、グラス・カーボン
弓に比べ、曲がり幅が大きくなる為に
、過大な捻り力を必要とせず、総合力
は増加する。
表 2: 曲げ方向への負荷に対する構造上の比較
弓 |
グラス・カーボン弓 |
竹弓 |
復元方向Aに対しての強さ*1 |
弱い 0 |
強い 1 |
復元方向 Bに対しての強さ*1 |
やや強い 0 |
強い 1 |
分現方向 Cに対しての強さ |
強い 1 |
やや強い 0 |
結果 |
1 |
2 |
*1: この強さの値は表面に張り付けら
れているグラス・カーボン素材を含めて
いない。これを含めるとAまたはB方向
共に対して強い。
近代のグラス・カーボン弓に於
いては、曲げ方向へ対して内木の素材
や構造上から来る影響は、グラス・カ
ーボン繊維から来る影響に比べて少な
い。 しかし、裏反りの大小への影響は
、内木の負荷増減に関わる為に使用素
材の品質が問われる。
-
弓の張力
実際の行射に於いて弓自体の総合反発力
から運動エネルギー或いは矢の速度・貫
通力等計る事は難しい。ここではそれぞ
れ異なった弓を使用し、弦にかかる負荷
をそれぞれの矢尺の長さで計測したもの
を記録した。それにより製造者・種類の
違いによる差が見られるのではないかと
思ったからである。
表 3: 異なった矢尺での負荷の比較
負荷の数値は10%毎の矢尺の長さで計測し
た。
例)50-60%の負荷増幅値は、
矢尺60%負荷 - 矢尺50%負荷の数値 (kg)
矢尺100%での計測負荷(kg)
弓の種類 |
グラス並 (ハンガリー) |
グラス並 (肥後蘇山) |
カーボン 2寸伸 (練心) |
竹弓 2寸伸 (楠見) |
カーボン 4寸伸 (直心) |
グラス4寸伸 (ハンガリー) |
裏反の強さ |
8,6cm |
12cm |
6cm |
21cm |
9,5cm |
9cm |
使用者の矢尺 |
85cm |
92cm |
86cm |
92cm |
98cm |
98cm |
製造年 |
2004 |
1988 |
2003 |
2002 |
2004 |
2004 |
矢尺100-110% |
10,82% |
12,43% |
12,82% |
11,49% |
12,84% |
9,94% |
矢尺 90-100% |
10,10% |
10,14% |
11,54% |
11,49% |
10,65% |
13,85% |
矢尺 80-90% |
7,65% |
9,29% |
9,23% |
8,53% |
11,24% |
10,89% |
矢尺 70-80% |
7,94% |
8,43% |
9,10% |
9,22% |
8,36% |
8,56% |
矢尺 60-70% |
9,38% |
8,57% |
8,59% |
8,19% |
8,56% |
7,61% |
矢尺 50-60% |
8,08% |
7,86% |
8,46% |
11,15% |
8,16% |
7,61% |
矢尺 40-50% |
9,24% |
8,29% |
8,21% |
5,46% |
7,96% |
5,29% |
矢尺 30-40% |
7,07% |
8,29% |
8,08% |
8,30% |
8,16% |
5,92% |
矢尺 20-30% |
8,66% |
9,57% |
8,59% |
8,99% |
8,66% |
10,36% |
矢尺10-20% |
10,82% |
13,14% |
10,26% |
10,69% |
11,64% |
11,84% |
矢尺 0-10% |
18,07%*1 |
16,43% |
17,95% |
17,97% |
16,62% |
18,08% |
*1: 実際の計測値は21,07% であったが、弓
巴が14cmと低かった為に15cmと想定し、1cm分を
実際の7cmの矢尺から引いた数字を用いた
。
例)グラス並(肥後蘇山)で
は15cmから22cmまで引いた時点で(矢尺0-10%)
0kgから2.3kgであった。これは100%の矢尺 14kgで
割ると、16.43%となる。
表 4: 表3への矢尺測定地点
値 cm |
弓巴*1 |
10% |
20% |
30% |
40% |
50% |
60% |
70% |
80% |
90% |
100% |
110% |
並寸 221cm |
15,00 |
22,00 |
29,00 |
36,00 |
43,00 |
50,00 |
57,00 |
64,00 |
71,00 |
78,00 |
85,00 |
92,00 |
2 寸伸 227cm |
15,50 |
22,95 |
30,40 |
37,85 |
45,30 |
52,75 |
60,20 |
67,65 |
75,10 |
82,55 |
90,00 |
97,45 |
4寸伸 233cm |
16,00 |
23,90 |
31,80 |
39,70 |
47,60 |
55,50 |
63,40 |
71,30 |
79,20 |
87,10 |
95,00 |
102,90 |
*1: 弓巴は弓を張って、引いていない状態
での内側から弦までの距離。
例)並寸では85cmでの矢尺を100%とし、弓巴
からこの数字を引くと実際は70cm引いた事
になる。よって10%の矢尺は7cm毎に計測さ
れた。
測定値 1 ハンガリー弓
ハンガリー製造の弓は負荷増減
に大きな差が出た。これは双方の弓が
それぞれ違った構造と材質からなって
いる事を表している。 この表をみる限
り引分け時に掛る負荷が一定で無い為
に射手にとってはあまり好ましくない
と言える。しかし、この事が発射時に
どのように影響するかは推測出来ない。
測定値 2 日本の弓
日本製造のグラス及びカーボン弓は製造
元・使用年数に関わらずほぼ同じ数字が
でた。
この測定に使用した友人から頂いたグラ
ス弓 肥後蘇山は約17年間使用したもので、
友人が学生時代には約10万射引いたにも関
わらず、新しい弓に比べて大差が無いの
には驚いた。このことから、現在使用さ
れているグラス或いはカーボン弓は、内
側の木材剛性の性能減退を考慮に入れて
も、表面に張り付けられているグラス又
はカーボン素材は長期間使用に於いても
変化がほとんど見られないと言え、これ
により弓の性能が決定されると言えるで
あろう。
110から100%の時点での負荷を比較してみる
と竹弓を除いて著しく数値が上昇してい
る。竹弓使用矢尺は92cm(102、7%)である事か
ら弓自体が実際の行射時の使用矢尺にあ
って育っていると言えるであろう。或い
は弓作成時に90cmの矢尺に合わせて弓が製
造された言えるであろう。ほぼ水平の増
加値は伸合時で急激に負荷が増加しない
といえる事から、伸会いによい影響を与
えると推測される。
竹弓以外では引分け時に徐々に弓力が増
加している事から、射手にとって引きや
すいと言えるだろう。竹弓では丁度大三
の位置(50-60%)を境に2つの山が見られるの
が特徴である。これは弓がこの矢尺位置
(40-50%)で負荷がほとんど増加しない事か
ら、弓がこの位置を記憶しているかの様
である。この2つの山が発射時にどのよう
に影響するかは表からは判断できない。
測定値 3 一覧表
竹弓に於いては計測前に約2日張
り込みをし、約30射した物を使用した。
これによってほぼ行者中の負荷を再現
出来ると思ったからである。
これらの事から、それぞれの弓について
典型的な数値が割り出せたのではないか
と思う。
しかし、竹弓においてはこの数値は製造
工程・竹素材・ひごの数に影響されると
考えられ、一般論としては使用しがたい
。
-
弓の運動エネルギー
エネルギーの伝達比は運動エネルギー
に値する。これらを比較するためには
弓の重量と素材の硬さ、弓の表面の面
積(空気抵抗)更にその他の矢・弦・
弓力のバランスと射手技量が同じであ
る事が条件である。一般的にこの運動
エネルギーが弓巴の位置で最大になる
のが善しとされている。
運動エネルギーは単に弓の張力(負荷
値kg)の大きさによるものではなく、引
き取った矢尺での反発力の大きさ、力
の伝達速度(瞬発力)、伝達距離・時
間そして 運動速度によるものから重量
と空気抵抗によるエネルギー低下を考
慮しなければならない。
弦が右親指から放たれてから弦は弓よ
りも軽く、空気抵抗が少ないために弓
よりも早く運動エネルギーを矢に伝え
る。しかし、矢は弦よりも重い為に直
ぐには最大のエネルギーと速度を伝達
する事が出来ない。少し遅れて弓が復
元し、矢を前方へ押し出す。
弓の復元速度が遅い場合は、矢は弦か
ら早く離れよって矢の推進力は低い。
更に、空筈状態(弦が矢無しで前進す
る)が長い為に弓の受ける衝撃は大き
くなる。
反対に弓の復元速度が早い場合はこれ
は理想的と言えるが、引き取った矢尺
の距離よりも明らかに短い場合は、上
記の如く空筈状態が長く、弓の衝撃は
大きくなる。更に矢は歪み力に対する
硬さよりも弓から受ける力が強い為に
アーチャーズ パラドックス値(矢が発
射時に弓の内側に曲がる現象)が増加
する。
弓の裏反りが強い場合は実際の弓の復
元位置は弓巴よりも長くなる。
弓のねじれによる復元力は矢を発射す
る寸前或いはその後まで働き続ける事
から、エネルギー伝達率は高くなる。
これは復元力が弓巴の位置で終わらず
に円方向へ働いているからである。
エネルギーの伝達力と矢の飛行速度
竹弓は強い裏反りの為に弓にかかって
いる負担と、素材自体の硬さがはグラ
ス・カーボン弓に比べ高いが、発射後
の衝撃は明らかに低い。このことから
、以下の事が想定される。
竹弓は弓の復元・反応速度がやや遅い為
、矢への力の伝達距離が長い。更に運動
エネルギーが最大になる位置が引き取っ
た矢尺から弓巴までの距離に近い事から
、空筈状態が少ない事と、更に多くの竹
繊維が上下にわたって振動を分散するこ
とから、発射後の衝撃が少なくなると言
えるであろう。更に上記の弓の負荷の増
加値を見る限り、100-50%までと50-0%と2回に
わたり、矢へ推進力を与える事から、矢
が早く弦から分離しずらいと考える事が
出来るであろう。
グラス・カーボン弓は少ない素材への負
担で大きなエネルギーを得る事が出来き
、更に短い時間と距離で矢にエネルギー
を伝達出来る事から、エネルギーロスが
少ないが、その分空筈状態が長くなり、
よって発射後の振動・衝撃は大きくなり
、更にアーチャーズ パラドックス値は高
くなる。
内側に並べられた木材は表面のグラス・
カーボン素材に比べ復元運動の反応がやや遅いために早すぎるエネルギー伝達を妨げており、衝撃吸収の役割をになっている。
表5: 発射時におけるエネルギーの伝達方
法の違い(矢の速度が同一の場合)
弓の種類 |
グラス・カーボン弓 |
竹弓 |
弓の反応速度 |
早い 1 |
やや遅い 0 |
伝達に要する距離 |
短い 0 |
長い 1 |
弓が復元するまでの時間 |
短い 1 |
長い 0 |
発射後の衝撃・振動 |
大きい 0 |
少ない 1 |
結果 |
2 |
2 |
上記の如く双方の弓は違ったエネルギー
伝達方法を取っている。
射手の技量における失敗は一般的に、実
際に右手の親指が弦から離れた瞬間と離
れたと思った時期と、離れから実際に矢
が弦から放れる時期の食い違いによる事
が想定される。
前記はいかに伸合いによる自然の離れが
出来たかにより、後記は角目の働きの強
弱と矢の重量に影響される。角目が持続
的に効いた場合と矢が弓の力に対して重
い場合は弦と矢の分利点が矢尺から見て
長くなる。後記の距離・時間が長くなる
ほどに矢の速度・貫通力が増し、弓への
振動は減少するが、それだけ力のバラン
スが持続的に正しい方向へ働いていなけ
ればならない為、矢所に影響する。
グラス・カーボン弓は弓の反応速度が早
く、力の伝達距離が短くて済むので、射
手の技量を助ける働きをする。竹弓は反
対の働きをするため、射手の技量が矢飛
びに現れる。
-
弓の価格
ここでは投資額に対する弓の働きの違い
を一覧してみたい。下記の一覧表は一般
的な平均の弓の価格と、弓のほぼ完全な
機能が発揮出来ると予想される試用期間
を記載した。
表6: 長期間にわたる弓の価格と試用期間
弓の種類 |
ハンガリーグラス弓 |
グラス弓 |
カーボン弓 |
竹弓 |
金額 |
180€ 2 |
300€ 1 |
360€ 0 |
500€ -1 |
試用期間 |
5年 -1 |
15年 1 |
18年 2 |
10年 0 |
年間金額 |
36€ 1 |
20€ 2 |
20€ 2 |
50€ 0 |
結果 |
2 |
4 |
4 |
-1 |
一般的には裏反りが強くなるほど価格が
上昇する。竹弓ではひごの数が増すほど
、内木の焦がしが強くなるほどに価格は
上昇する。
価格は弓の性能と比例して高くなってい
る。
初心者に於いては通常、稽古の頻度・射
形の変化により、適当な弓の強さは変化
しやすい。ある短い期間は弱く安い弓を
使用し、その後に自己にあった弓を購入
する方法もある。
初心者、或いは弓力を上げる為に一時的
に強い弓を使用する場合は金額の低い弓
は価格面で使用価値が高い。長期的に見
るとグラス・カーボン弓は価格面で見る
限り使用価値が高い。
低価格のハンガリー弓は前記で記載した
通り、弓の性能にバラ付きがある為に購
入の際は注意を要する。弓の選択は射術
の大きな影響を与えるために慎重にした
いものである。
竹弓は短期期間使用には価格が高すぎる
感がある。竹弓の使用法・感覚を学ぶた
めに初期は安い弓を購入し、数年後に性
能のより高価格の購入をするのがよいと
思われる。竹弓は1年目で製造時の裏反り
を抜くために約5-10%位の弓力が低下する
。夏期・冬期の気温や湿度の差によって
も約5%位の弓力の違いが新弓の場合でる
ことがある。
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体感による弓の嗜好
弓の冴えは射手の技量・経験によっても違いがあり、また位置づけが違ってくる。
a) 弓の反応速度と射手の体感について
一般的に発射時の弓の振動と衝撃が少ないほど、射手にとって心地よいといえる。弓の反応がやや遅く、弓の復元速度が遅いほど、射手は自己の射技を感じ取る事が出来る。弱い弓ではこの違いは大きくないが、強い弓では違いが体験できる。上記の如く例えば竹弓はグラス・カーボン弓に比べて発射時はやや柔らかく感じる。しかし、このような弓は射手の射技の度合いによるところが大きいためにやや難しい弓と言える。
反対に弱弓で強い矢飛びが得られると言う事も良い条件の一つに上げられる。例えば新素材のグラス・カーボン弓は同一条件で竹弓に比べ射手の技量に左右されにくい為に、矢飛びについては良い結果が出やすいといえる。
b) 弦子・弦音・弦拍子
弦子とは弦の別れといわれ、矢が弓巴にたどり着く前に放れる時の音。音は荒くなる
弦音は弓の別れといわれ、矢が弓巴の位置で放れる時の音。音はやや良くなる
弦拍子とは矢が弓巴の位置を通り越した時点で放れる時の音。一般に一番良いとされている。
離れ後の高く短い弦音は一般的に善しとされているが、以下の要素が絡んでくる。
1.上関板の構造
弓師また弓の成りの違いで上関板の形・材質が違ってくる。弦音も他の条件が同一の場合はこの形と材質に影響される。素材は一般的に軽く、硬い木材がよいとされている。
2.弦・矢・弓
弦と矢の重量の兼ね合いが弓に合っていることもよい弦音の条件となる。弦が矢の重量に対して軽く・細い場合は矢をやや長く押す為に、弦は伸び切っている状態で上関板を打ち、波立ちが少なくなる。よって弦音は短く高音になる。軽すぎる弦は弓への負担が増加する事と、弦が上がりやすい。反対に弦が矢に対して重い場合は矢が早く放れていくために、弦音は低く、低音になりやすい。重過ぎる弦は上がりにくいが、空筈状態が長くなりやすいため、弓への負担は増加する。
一般的に軽い矢を使用したときは弓と弦からの矢に対するエネルギーの伝達値は減るが、矢の速度は増す。しかし矢が弓巴の手前で弦から分離するために弦音はよくない。反対に重い矢を使用したときはこの値は増すが、矢の速度はやや減るが、弦との分離点は遅くなるためによって弦音はよくなる。
3. 弦と上関板との間隔
弦がつき過ぎている場合は弦音は出やすいが、弦が長く上関板上を払うためによい音はでない。反対に放れ過ぎている場合は弦が関板をかすめる程度で音は小さくなる。一般的には1・2本弦が入る位の間隔がよいとされている。
4. 弓の成り
一般に姫反りが強く弓上部の反発が強い傾向にある弓は復元速度が高く、弦の復元速度に近くなる為に弦が弓を打つ際に振動が少ない為に弦音は良くなる傾向がある。
5. 弓の作り
弓力に対して弓自体が軽く、細い場合は弓の反応速度・復元速度共に早くなるため、上記の如く、弦音はよくなる傾向にある。
4. 射技による違い
一般的に弓を引き込んだ際に右手親指は矢の数センチ下であることから、矢が放たれると弦上に小さな波が上方へ向かって進行する。この波が大きすぎると弦音は長く低くなる。角目の働きが持続的に強い場合は矢と弦の分離点が遅くなるために上記の如く弦は上関板接触時に伸び切っているために高音で短い弦音がでる。捻りの強さも重要で、捻りが足りない場合は弦は弓の中心へ向かって進む事になり、弓が弦道を妨げる形になり、弦音は悪くなる。反対に捻り過ぎの場合は、上関板が的方向へやや捻られていることから、弦は上関板の左側を打ち弦音は悪くなる。
c) 弓の冴え
弓の冴えは弓の潜在能力と射手の技量があったときに体験出来る事であり、弓の違いによる冴えへの影響は少ない。一般によい弦音が出たときは自然と弓が冴える傾向にある。
握りの太さ・形も影響し、射手の手にあった握りが射技へ影響を与えるだけでなく、弓返りの後の弓の収まりに影響を与える。
d) 個人の嗜好
弓の外見については個人の嗜好が左右する。弓の素材・重量・色・弓の成り等は、弓師等によって違いがあるために、できれば弓具店で違った弓をたくさん見て、個人の嗜好にあったものを選択する。弓の色についてはほぼどの弓での可能であるが、漆塗りは高価であるが、通常の塗装にくらべ、長期使用に耐えられる。
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展望・まとめ
ここでは幾つかの項目を挙げてそれぞれの弓の違いを比較してみたが、これは決してどの弓が優れていると言う事ではなく、弓の違いにおけるを記載したに過ぎない。弓はカケに比べると新調や交換の際における影響はやや少ないといえるが、射技向上は使用する弓を使いこなせるかどうかが重要である。弓力を上げる際、また伸び合いを修得するために一時的に弓力の強弱を変えるのも一つの手である。私的意見としては使用する弓の強弱によって以下の事が言える。
やや弱い弓10-14kg程度を使用する際は、飛行距離と速度に於いてカーボン弓は有利である
- 少ない努力・大きな成果
やや強い弓16kg以上を使用する際は、射技向上の為に竹弓で体感を修得する。
- 大きな努力・大きな射技向上
近年では竹弓とカーボン繊維を組み合わせた弓がでている。これは竹弓のよさを残しながら、新素材による矢飛びと、故障を防ぐ働きを持っている。しかし、新素材と竹弓の組み合せにより、結果として双方のよさが半減される可能性もある。しかし、使用経験が無いために次回機会のある時に記載したい。
弓の選択で投資可能であれば、竹弓を進めたい。これは上記記載の如く、弓の形が収まるまで数年を要するため、短期使用は薦められない。竹弓使用に対しては自己の矢尺と弓力はもちろん射技もある程度固まっている事が条件になる。竹弓は離れの善し悪しが、射手の技量にあわせて素直に反応し、自己の欠点がわかりやすい。更に弓の取り扱い方を学ぶよい機会となる。弓の調整や気候による弓の変化を学び、弓を育てる楽しみは竹弓以外ではないものである。
弓道の修行に於いて、よい弓の選択は、的中・集中力意外に個人の弓道に対する考え方に大きな影響を与えると言えるであろう。
この記事について読者からのご意見・訂正等のご連絡をお願いしたい。
2005年3月 © Shigeyasu Kameo
追記説明:
弓を引き取った状態での弓の強さを張力、或いは反発力と記載した。この時に計りにかかる力を負荷と表現し、弓の張力を表した。
離れから弓が復元する運動能力は復元力と表記した。
それぞれの表ではポイントを付けたが、1は 0 に対してやや優れている事を表している。
しかし、それぞれ比較対象・使用した弓の違いによりこの数値は変化する。
この数値はあくまで目安とし、弓の能力を計ったものではない。
弓の張力の項で負荷値や割合を%で表記したが、弓の製造元・製造方法・材質によって違いが出ると思われ、一般論としては使用できない。竹弓についは恐らく大きなバラ付きがでると思われる。内容は私的意見が多く記載されている。比較項目の種類・やり方によっては違った結果がでるものと思われる。
参考書類等
小山弓具店・弓道三味・弓具の見方と離れの時期
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