緊張して失敗を繰り返しながら、色々と試行錯誤しながら緊張に向き合ってきた。まだまだ、途中ではあるが、今回は現在の考え方を留めて記載したい。
昔は緊張したり、緊張しなかったり、又は緊張したことによって上手くいったり、全く上手くいかなかったりを繰り返してきた。緊張というのは、周りや他の人のせいでなく、結局は本人の意識の持ち方ではあるが、これをどうゆう風に克服できるのかという課題に取り組んできた。そういった中で「何故、自分は緊張するのか」が分かれば、「どうやったら緊張せずに済むか」という処方箋が出るのではないかと思い、色々と試してみた。例をあげると、
①場慣れしていない(いわゆる通常とは異なる状況下で、場に飲まれてしまう)のを補うために、多くの模擬審査や、模擬試合を体験し、経験を積むことにより不安を解消する。
②自信が十分でない(自身で力量の不足を感じる時)のを補うために、稽古量を増やし、出来る事はすべてやったと思うくらいの状態を作る。
③意識過剰(持っている以上の力を出そうと努力する。又は必要以上に見せる射を行う。)を補うため、自己の力量をしっかり評価し、それ以上は稽古で、それ以内は晴れの場でという考え方をする。
このような稽古を進めていくうちに、自己暗示(これだけ場慣れしたからとか、これだけ稽古したからとか、自分のレベルが分かるから)の意識を働かせ、脳が経験則に従って、仮想未来に起こる状況がある程度想定される状態を作ることが出来れば、意識的に緊張しない状態にできるということが分かった。又、緊張して失敗する原因は、主には心身の凝りから来ることも分かってきた。無意識下で通常以上に精神的、あるいは身体的に凝りが出来ると、イメージ通りの身体操作が出来なくなってしまう。そういった事から、通常の稽古でも、晴れの場でも、常に無駄な凝りを除くことに努力をすることになった。これは、「何故緊張するとうまくいかないことが多いのか」という一つの回答が導き出されたとも言えるだろう。
しかし、これとは反対に、緊張度が極端に少ない場合の失敗については、処方箋がないことが分かった。どうゆう事かというと、過度な自己暗示は緊張感のない、いわゆる心身共に腑抜け状態にもつながり、リラックスの方向が間違って、やる気や、集中力が欠け、失敗することにもつながった。 この経験を通して分かったことは、一つの問題を便宜的方法によって一時的には克服できても、その他の問題は解決することが出来ないということである。これは、薬に副作用があるように、熱は下がったが下痢したりといった感じであろう。ようは、本質的な問題解決になっていないことが分かった。
腑抜け状態にならない解決策としては、いわゆる「ハイ」の状態を作りだす必要があることに気づいた。このハイの状態とは、火事場の糞力と言われるように、自分が意識的に知りえる自己の力量を超えたものが、無意識に作用し、結果として出来きたという状態と考える。オリンピックや世界大会などの大きな大会では、世界記録がでやすい。これは、様々な要因があると思われるが、ひとつに選手自身が場に溢れているエネルギー(観客の記録への期待)を自分の力に転換して結果につなげたり、自分がハイの状態をつくり、潜在能力を高めるテクニックである。このように、場や自己の中にある緊張をエネルギーへ変換することが記録を伸ばすことにつながると考えられる。このように経験を重ねてくると、本人の無意識下で緊張すると、凝りができ失敗し、意識的に緊張すると、通常以上のパフォーマンスを出せる事が分かってきた。
これが分かってくると常ではないが、緊張とうまく向き合うことが出来、凝りをつくらず、力をだす緊張を生み出すことが出来るようになってきた。重要な鍵は、自分と直に向き合うことで、不意に緊張を感じたら、それに対して無理に緊張をなくすのではなく、何故緊張しているのか、どのくらいの緊張度か、どのくらい心身に影響を与えているのか等、その緊張をそのまま受け入れ、対話することが重要である。いずれにしても、緊張はある一定のエネルギーであるので、そのエネルギーを心身の凝りとして働かせないように、逆にパフォーマンス向上の為に変換するように施すとうまくいきやすい。緊張は、追加のエネルギーとして考え、これを上手く利用することが大切である。
このような段階を経ながら、緊張と向き合ってきたが、最近では「緊張とは、緊張する隙があるから緊張する」と思うようになった。ようは、今必要以上の思考や感情が付け入る隙があるから、緊張したり、腑抜けになるのであって、常に刹那毎に最大の意を最大限に配れば、余計な緊張はしないはずという理屈である。自分を含めた周り全て (見えるものも、見えないものも含めて) に同時に集中すると、自己は消滅し、あくまで自己も全体の一部であるように感じられるようになる。そうすると自と他の区別がなくなるので、もはや、存在しない自が他から影響されることはなくなる。ここまで、隙をなくせば内外からの干渉から離れることが出来ると考える。今現在では、これが緊張を解消する一番の方法と思い、稽古に励んでいる。