2018年9月22・23日の両日イタリア、ローマの弓道場で欧州の称号者を対象にしたセミナーが開かれた。このセミナーは、欧州内での称号者(錬士号、教士号)が集まって、独自に切磋琢磨する研修会として例年開催されている。自分は2012年イギリス、2016年フランスでのセミナーに参加し、今回は3回目となり、教士を取得してからは、初めての参加となった。現在欧州内での教士号取得者は合計10名となり、欧州弓道連盟では指導委員会の役員として、欧州称号セミナーでは講師としての役割を担う事になった。
今回はそのセミナーでの個人的視点で気づいたことを中心に書いてみたい。
初日の矢渡しについて
本人は、第二介添えを依頼されていたのでそのつもりでいたが、当日になって急遽矢渡しで射手を担当する事になった。メールでは、確かに「新しく教士になった私に矢渡しに参加してもらいたい、介添えとして」と記載されていたが、最後の as Kaizoe を読み飛ばした事による勘違いと思ったが、棚ぼたで良い経験になる機会が回ってきたと思い、快く引き受けた。
ローマの道場は15年ほど前に建てられ、その後何度も増築、修理修繕が行われ現在に至っているという。床は厚くニスがかけられており、午前中は高湿度であったため、ベタベタとして滑らずクスネの上(誇張しすぎか?)を歩行するような感じであった。また、高温・高湿度でユガケもクスネが溶けてベタベタ状態であった。しかし、慣れない場所や、想定外の環境で引くことは多々あるので、体の方は割にそういった環境の違いを感じてそれなりに対応することは出来たと思うが、流石に道具はそういった環境に即適応できないため、射手が調整する必要が生じる。
今までに何度も暑く湿気の多いときは引きにくいという認識はあったが、今まできちんと対応をしていない自分に気付く良い機会となった。ギリ粉もクスネ同様に夏用・冬用があるのではないか?今後は、状況に応じて普通のギリ粉、長時間煮込みギリ粉、白いギリ粉等色々と使い分けてみたいと思った。また、弓も今回は出発時のドイツでは気温が20度前後と下がっていたので、温存していたニベ弓を張り込み持参していたので、迷わず矢渡しでも使用したが、ローマでの高い湿気と気温下では弓にとってかなり過酷な条件であったと反省している。(実際乙矢では会でニベが伸びるような感触があった)幸いにも替え弓として合成接着剤を使用した竹弓を持参していたので、残りの2日間はこの弓で引くことが出来た。
今回の矢渡しでの出来は、外から見た人と実際に行射した人では違う感想となると思うが、自己評価では少なくとも①行射を通して的・射場の位置確認(的中をもって)と、②参加者のセミナーでの成功と無事を祈願し、至誠をつくす事が出来たので、成功であったのではないかと思っている。反省点としては、①第一介添えに対してどこまで射手の手助けをすべきか或いはすべきでないかを伝えていなかった点。(実際に肌脱ぎの時には不必要な手助けが入った)②替え弓を渡してあったが、間が空きすぎることに加え、第二介添えに配慮する形で、甲矢を射放って後の弦切れ、弓の故障があった場合は、替え弓を使用しない予定と伝えていなかった事。③定め座での位置決めをする際に、その道場で通常用いられてるポジションをそのまま鵜呑みにして使ったが、入場の際はぴったり合ったものの、退場では第一介添えと退場口の間が非常に狭く大変苦労した。次回は入場のみならず、退場のことまでしっかり考えて位取りをしなければならないと反省した。そういった事で、難なく終了した矢渡しであったが、多くの反省点もあり、良い経験となった。
矢渡しの後にCharles-Louis先生から「執弓の姿勢で矢先がきちんと弓の末弭に向かっていない。」というアドバイスを受けた。(よく見てくれてありがとうございました)Feliks先生からは「乙矢では伸び合いが最後まで継続していなかった。」という指摘を受けた。(これは本人も実感)
錬士グループについての独断
矢渡しの後は錬士グループが5名で行射を行い、立ち毎に担当教士がコメントする形をとった。自分はオーストリアのDiethard先生と一緒に始めのグループを見てコメントした。
全体の評価は「射の総決算は離れから残身にあり、あくまで引き分けの延長線上での離れでなければならない。また、強いは強いなり、弱いは弱いなりに最大のパフォーマンスを矢に乗せるという気持ちが重要」とコメントをした。これは、外から見て綺麗な形はしているが、なぞるような引き方で、会に入ってから別の力を使って離れを作っているように感じたからである。これは人に指導しながらも最終的には自分にも問いかけしたものであった。年配の錬士の人の中には、射技としては良射と思わる射が多く見られたが、残身での気力が足りない感じがした。やはり射の総括である残身で射格の違いが出ているのではないかと思った。これについては「心に響く射」でコメントしている。いずれにしても、慣れない道場で、慣れない状況と緊張もあったせいか、離れ的中ともに弱かった。
教士グループの射についての独断
2日目は教士3名(Laurence、Gerald、Charles-Louis各先生)による一つ的射礼が行われた。感想としては、射に対する姿勢(至誠を尽くし、全身全霊をもって)と気迫(性別、性格に応じた)が明らかに錬士グループと違う事が感じられた。確かに人間であるので好不調はある。また常に的中があるとは限らない。しかし、場の掌握(間の取り方と息合い)がきちんとしており、外へ見せる射ではなく、立ち内での調和、自己との対決が明確にあること。残身では全てを尽くした潔さが感じられた。これは弓道に対しての心持ちが自然に本人の芯から滲み出てくるのもであるので、やはりこの辺が錬士グループとの大きな違いではないかと思った。
実を言うと自分も昔は外観からしか評価ができなかったが、最近は内面的働きが少しづつ見えるようになったので、もしかすると他人の評価のレベルは、自己の射のレベルに応じて上がっていくのではないかと思った。
セミナー総括
やはり期待はしていたが、イタリア人の食のレベルは半端ではなかった。レストランでもおいしかったが、セミナー中に用意してくれたものは皆手作りの家庭料理で、食べきれないの種類と量、そして味に感動した。
欧州で指導者として活躍している称号者が集い、互いに切磋琢磨しながら弓を学ぶことの出来るこの欧州称号者セミナーは、今後欧州全体での弓道のレベルアップにつながると信じている。
今後は指導委員会の一人として、参加者の人達に時間とお金の投資以上に有意義なものになるように少しでも役に立てればと思っている。又、自身も次回の講習会までに更に成長したいと思っている。